
土地と建物の名義が異なることによる主なデメリット
法的トラブルのリスク
土地と建物の名義が異なる状態とは、たとえば「土地は親名義、建物は子名義」「土地はAさん、建物はBさん」など、所有者が別々である状態を指します。このような状況は、法的トラブルの温床となる可能性が高く、実際に多くのケースで問題が発生しています。
まず最大の問題は、権利関係が複雑になることです。たとえば、建物の所有者がリフォームや売却を希望しても、土地所有者の承諾がなければ自由に行動できません。逆に土地所有者が土地を売却したくても、建物がある状態では第三者への売却が難しくなります。このように、相互に制限を受ける状態が続くと、思わぬトラブルが起こるのです。
特に親子間や兄弟間であっても、「当たり前に貸している」つもりでも法的根拠が曖昧であると、将来的にトラブルに発展する恐れがあります。たとえば、親の死亡後に相続人同士の間で「これは貸していたのか?贈与だったのか?」と揉めるケースも少なくありません。
契約書がなく、使用貸借(無償での貸し借り)という状況になっている場合でも、法的には「使用者の権利は弱い」とみなされる傾向があります。こうした状況を放置すると、家庭裁判所での調停や訴訟に発展するリスクもあります。
また、名義が異なる状態では、売買や担保設定、相続、贈与など、不動産に関するすべての手続きが煩雑になります。「何か起こってから対応する」のでは遅く、事前に協議し、書面で権利関係を整理しておくことが重要です。
不安を感じたら、まずは弁護士や司法書士の事務所へ相談するのが安心です。特に相続が関わる場合には、第三者を介した冷静な対応がトラブル防止につながります。関係性が近いほど口約束に頼りがちですが、それが後々のトラブルの原因になることも多いのです。
土地と建物の名義が異なる状況は、一見すると問題がないように見えても、「権利の不一致」が常にリスクとなって潜んでいます。法的トラブルを防ぐためには、現状をしっかり確認し、必要であれば早めに名義の見直しや契約書の整備を行いましょう。
税務上の問題
土地と建物の名義が異なる場合、税務上のトラブルが発生する可能性も無視できません。特に気をつけたいのが、贈与税の課税リスクです。
たとえば、親名義の土地に子どもが家を建てた場合、税務署は「土地の使用に経済的利益が発生している」とみなすことがあります。つまり、親が子に土地を無償で貸している=贈与と判断される可能性があるのです。これは「使用貸借」であっても、税務署の解釈次第で課税対象となる恐れがあります。
また、登記簿上の名義が一致していないことから、財産の帰属が不明確になりやすく、相続時や不動産売却時に贈与税・相続税・譲渡所得税などの税負担が複雑化するリスクも高まります。
さらに、建物だけ子の名義にして住宅ローン控除を受けようとする場合、「土地を所有していない」ことが条件に反するとされるケースもあります。こうした細かな点を見落とすと、住宅ローン控除や減税の特例が使えないという損失にもつながりかねません。
こうした税務リスクを防ぐには、まず税理士に相談し、ケースごとの対応方針を確認することが非常に重要です。「いくらかかるのか」「どのタイミングで何の書類が必要か」などを明確にしておくことで、トラブルを未然に防げます。
特に名義が異なる場合は、関係書類を正確に管理することが重要です。登記簿、契約書、借地契約、贈与契約書などを整理し、いつでも税務署や専門家に提示できる状態にしておきましょう。こうした対応が、将来的な税務調査や課税リスクへの備えとなります。
税務トラブルは、表面化したときにはすでに「後戻りできない状態」になっていることが多く、追徴課税や延滞金などの負担が発生する可能性もあります。そうならないために、事前に税理士と連携し、最も適切な税務対応を選択しておくことが賢明です。
名義が異なる場合の具体的なケーススタディ
親名義の土地に子が家を建てた場合
「親名義の土地に子どもが住宅を建てる」というケースは非常に多く見られます。一見すると親子間の信頼関係に基づいた自然な選択のように思えますが、名義の違いによるトラブルが潜在的に存在しており、注意が必要です。
まず問題となるのが、親が亡くなった後の相続です。土地が親の名義のままだと、法定相続人すべてにその土地の相続権が生じます。たとえ子がその土地の上に自宅を建て、長年暮らしていたとしても、「他の兄弟姉妹が相続分を主張してくる」可能性があり、遺産分割トラブルに発展することもあります。
こうした事態を防ぐには、生前に遺言書を作成し、誰に土地を相続させるかを明記しておくことが有効です。特に子がその土地で生活基盤を築いている場合は、遺言によって法的な裏付けを持たせることで、自宅を守るための大きな防御線になります。
また、親が子に土地を貸すという形式で「賃貸契約」を結んでおくことも、トラブル防止に役立ちます。形式上でも賃貸借契約があれば、子は「借地権者」としての権利を主張できる余地が生まれます。たとえ無償であっても、契約書を交わしておくことが重要です。
さらに、同居していない兄弟姉妹との情報共有も欠かせません。事前に「この土地には○○が住んでいる」「建物は○○の名義である」と共有しておくだけでも、相続時の認識のズレや誤解を減らす効果があります。
このように、親子間での信頼関係だけでは解決できない場面があるため、将来を見据えた法的準備が重要です。「建てたのに住めなくなった」「遺産分割で立ち退きを迫られた」という実例もあるため、名義に関する事前対策は必須といえるでしょう。
相続した土地に建物を建てたが名義変更をしなかった場合
土地を相続したつもりでも、名義変更(相続登記)をしていない状態で建物を建てるケースは珍しくありません。しかし、これは後々大きなトラブルを招くリスクがあります。
まず前提として、法的に土地の所有者として認められるのは登記上の名義人です。たとえ遺産分割協議で「この土地は長男が相続する」と決まっていても、名義変更をしなければ、不動産登記簿上では被相続人のままです。つまり、正式には「相続していない」状態となります。
このまま建物を建ててしまった場合、他の相続人が「勝手に建てた」と主張するリスクがあります。また、遺産分割がまだ完了していなければ、土地は法定相続人全員の共有状態とみなされ、建築行為そのものが権利侵害と見なされることも。
さらに、借地権の概念も絡んできます。たとえ家を建てた本人が「当然自分の土地」と思っていても、法的には相続登記を経ていない限りは第三者に対抗できる権利がないとされ、地代請求や使用料の請求が発生することすらあります。
また、固定資産税の請求先が登記名義人=被相続人のままであれば、役所からの通知も届かず、税金の滞納が発生することも。これは「誰が支払うのか」を巡って親族間のトラブルに発展する要因にもなり得ます。
こうした事態を防ぐためには、遺産分割協議書を速やかに作成し、相続登記を完了させることが不可欠です。そのうえで、建物を建てる際には、登記簿と実際の使用状況が一致しているかを必ず確認しておきましょう。
土地と建物の名義が異なる状態で建築行為を進めると、財産評価にも影響します。特に相続税の申告時には、「土地は誰の所有か」「建物の評価額は誰に帰属するのか」が問われるため、税務署との認識のズレによる課税リスクも出てきます。
名義の確認と変更は、手間がかかるように見えて最も確実なトラブル回避策です。「何もしなかった」が後悔につながらないよう、早めの対処が大切です。
土地と建物の名義が異なることによる税務上のデメリット
固定資産税の負担が不明確
土地と建物の名義が異なる場合、固定資産税の負担が曖昧になるという税務上の問題が発生します。たとえば、土地が親の名義、建物が子の名義である場合、どちらが税金を支払うべきかをめぐって、トラブルになることがあります。
そもそも固定資産税は、不動産の「所有者」に課税されます。登記上の名義人に対して請求されますが、実際の使用者や居住者が異なる場合、その費用負担についての取り決めがないと、「払ってくれなかった」「自分ばかり負担している」という不満が生じやすくなります。
さらに、名義が分かれている場合には、税金の通知が届くのは土地所有者か建物所有者か、自治体の判断に委ねられることもあり、意思疎通のないまま滞納や延滞金が発生するケースもあります。
特に持分のある土地や建物が相続されていないまま放置されている場合、複数人での共有状態となり、税負担の所在がますます不透明になります。結果として、「誰も払わない」「一人に請求が集中する」など、実務上の困難が生まれるのです。
このような事態を防ぐには、名義を一致させることが基本です。少なくとも、税負担についての文書での取り決めや口頭ではない明確な合意を交わすことで、将来的な揉めごとを減らすことができます。
また、固定資産税の負担額は不動産の評価額に基づいて決まるため、地価の高い都市部や再評価が入った場合は、想像以上に高額になることも。2025年現在も、評価額の上昇が続いている地域では、「なぜこんなに高いのか」と混乱する例も見られます。
「固定資産税は誰が払うのが正しいのか?」という問いに明確な答えはありませんが、名義と負担の関係性を整理しておくことは、非常に重要です。場合によっては無償使用が贈与とみなされるリスクもあるため、税務署や税理士に早めに相談しておくと安心です。
不動産を共同で所有することや、名義を分けて活用することにはメリットもありますが、税負担の面では不安や悩みを生む要素にもなり得ます。実態に合った管理体制を整えておきましょう。
相続税の計算が複雑になる
土地と建物の名義が異なる状態は、相続税の計算をより複雑にする要因になります。通常、相続財産の評価は、名義人ごとに財産を区分して行いますが、土地と建物が別名義だと、それぞれの価値が誰に帰属するかの判定が必要になり、手間がかかります。
たとえば、土地が父親名義で建物が子ども名義だった場合、父親が亡くなると、土地の評価額のみが相続税の対象となります。しかし建物の評価と利用状況によっては、土地に対する使用権(借地権)や無償貸与に関する課税リスクが生じることもあります。
さらに、同じ不動産でも誰がどの割合で所有しているのかが明確でないと、相続財産として評価する際に混乱が起きます。固定資産税評価額、路線価、使用実態などを複数の条件から精査する必要があり、専門家でなければ正確な計算は難しくなります。
また、評価額や相続割合の判断を誤ると、贈与税の対象となる可能性も出てきます。たとえば、「実質的には親の土地を子が自由に使っていた」と見なされると、使用利益相当額が贈与と判定されることもあるのです。
このような事態を避けるためには、生前から名義整理と相続計画を進めておくことが効果的です。具体的には、次のような対応が有効です:
- 土地と建物の名義を統一しておく
- 財産評価のシミュレーションを税理士に依頼する
- 相続財産一覧表を作成しておく
- 遺言書に具体的な財産配分を記載する
相続税の申告は相続開始から10ヶ月以内とされており、名義の複雑さによっては、この期間内に準備を終えるのが難しい場合もあります。その結果、加算税や延滞税が発生してしまう可能性もあるため、注意が必要です。
「名義が違っていても何とかなるだろう」と放置せず、少なくとも家族間で所有状況と役割を共有しておくことが大切です。必要であれば、税理士に早めに相談し、整理と対策を講じることをおすすめします。
物理的なデメリットとその影響
立ち退き要求のリスク
土地と建物の名義が異なる状態にあると、思わぬタイミングで「立ち退き」を求められるリスクが生じることがあります。特に、土地の名義人と建物の使用者が異なる場合、関係性に変化があれば、土地の返還を求められる可能性があるのです。
たとえば、親名義の土地に子どもが家を建てていた場合でも、親の死後、他の相続人が土地の売却や共有解消を主張すると、「立ち退いてほしい」と請求されるケースがあり得ます。これは、相続が発生したことで、土地の所有者が複数になり、合意形成が難しくなるためです。
また、法人名義の土地に個人が建物を建てて使用していたり、親戚名義の土地に建てた場合なども、名義人の意向ひとつで使用を打ち切られるリスクがあります。書面上の契約がなければ、法律的には「いつでも返還請求が可能」とされるケースもあります。
こうした立ち退き要求に対応するためには、あらかじめ賃貸借契約などを締結しておくことが重要です。無償であっても、「使用貸借契約書」を作成しておくだけで、法的に使用権が認められやすくなり、防御力が高まります。
また、万が一立ち退きを求められた場合に備えて、事前に対策や交渉の準備を行っておくことも重要です。特に以下のような対策が有効です:
- 契約書を用意し、土地使用の条件や期間を明記する
- 代替地や仮住まいの候補を把握しておく
- 交渉時に必要な資料(登記簿、契約書、支払履歴など)を整理しておく
立ち退き問題は感情的な争いに発展しやすく、時間と費用を浪費しがちです。交渉がこじれる前に、第三者(司法書士・弁護士)に早期相談することも大切です。近年では、24時間対応の不動産法律事務所や、無料相談を行っている自治体もあるため、積極的に活用しましょう。
「立ち退き要求は突然に」。そうならないために、日頃から名義・契約・使用権の整理と明確化を心がけることが、最も確実なリスク回避策です。
建物解体の可能性
土地と建物の名義が異なる場合、さまざまな事情から建物を解体しなければならない状況が生じることがあります。特に、土地の所有者が別人である場合、「土地を返してほしい」「更地にして引き渡してほしい」といった要望が出ることで、解体が避けられなくなるケースもあります。
たとえば、使用貸借や無償での利用が続いていた場合でも、土地の名義人が代替わりしたことで、方針が変わり、使用の継続が認められなくなることがあります。その結果、建物を撤去して返還しなければならないという事態が起こり得ます。
また、相続後に兄弟姉妹間で「土地を売却したい」という意見が出た場合、建物があることで売却が難しくなり、解体を求められるという流れも珍しくありません。このようなケースでは、建物の所有者が一方的に不利な立場に置かれることもあります。
さらに、建物自体が老朽化し、倒壊や近隣への被害が懸念される場合には、行政から「除却命令(建物の撤去命令)」が出されることも。特に2024年以降、空き家対策として特定空き家の認定基準が強化されたことで、自治体が積極的に対応する例が増えています。
こうした建物解体の可能性に備えるには、まず契約上の取り決めや名義関係を整理することが先決です。建物を建てる時点で「土地の利用期間は何年か」「契約解除時の対処方法はどうするか」などを明文化しておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
また、いざ解体が必要になった場合に備えて、解体費用の目安や業者の選定基準をあらかじめ調べておくと安心です。補助金制度を利用できる地域もあり、費用負担を抑える選択肢も考えられます。
建物の解体は所有者にとって精神的・経済的負担が大きい決断です。しかし、必要なときに備えて情報を収集し、選択肢を用意しておくことで、慌てずに対応することができます。
「建てる前に解体のことを考える」のは現実的ではありませんが、名義が異なる以上は、万一の事態に備える姿勢が大切です。契約書・遺言・登記の整備によって、将来の解体リスクを最小限に抑えましょう。
名義が異なる土地と建物の売却方法
名義を統一してから売却する方法
土地と建物の名義が異なるままでは、不動産をスムーズに売却することが難しくなります。売却前に名義を統一しておくことで、取引におけるリスクやトラブルを大幅に軽減できます。
不動産売買では、買い手にとって「登記名義人=売主であること」は非常に重要です。名義が分かれている状態では、登記上の所有者全員の同意が必要になり、契約手続きやローン審査、登記変更に支障をきたすことがあります。
そのため、売却を検討している場合は、まず土地と建物の名義人が協議し、どちらかに統一する手続きを進めるのが基本です。たとえば、土地が親名義・建物が子の名義であれば、贈与や売買を通じて一方にまとめることが選択肢となります。
名義変更には、以下のような書類と手続きが必要です:
- 登記原因証明情報(売買・贈与契約書など)
- 印鑑証明書・住民票
- 固定資産評価証明書
- 司法書士または法務局への登記申請
特に贈与による名義変更には、贈与税が発生する可能性があるため注意が必要です。贈与金額が基礎控除額(年間110万円)を超えると課税対象となるため、税理士と連携して最適な方法を検討しましょう。
名義統一には一定の時間と費用(登記費用・契約書作成費・贈与税など)がかかりますが、結果としてスムーズな売却と高値での成約につながる可能性があります。買い手にとっても「所有権が明確」であることは安心材料です。
不動産会社と相談する際には、名義の状態や変更予定について事前に伝えることで、売却プランの提案や価格査定もより現実的になります。場合によっては、名義変更を前提とした「買取サービス」なども検討できます。
土地と建物の名義を統一してから売却することで、手続きの簡略化・信頼性の向上・売却スピードの加速というメリットが得られます。売却を検討しているなら、まずは所有名義の確認から始めましょう。
名義の異なる不動産を同時に売却する方法
土地と建物の名義が異なる場合、それぞれの不動産を同時に売却することは可能ですが、適切な準備と調整が不可欠です。名義人が異なることで、売却手続きや契約内容が複雑になるため、事前の計画が重要になります。
まず第一に確認すべきなのは、各不動産の名義人全員が売却に同意しているかという点です。たとえ建物の所有者が売却に前向きでも、土地所有者が同意しなければ、一体としての取引は成立しません。反対に、土地を売って建物を残すという選択肢も現実的ではないため、全名義人の同意は必須です。
次に、売却時の契約方法を検討する必要があります。代表的な方法には以下の2つがあります:
- それぞれ別々に契約書を作成する方法(土地・建物を分けて売買)
- 一括売却とし、全員が売主として署名する方法(一体の不動産として売却)
一括売却にした方が買い手にとって分かりやすく、ローン審査や所有権移転もスムーズに進む傾向があります。そのため、可能な限り土地と建物をセットにして販売する形式が望ましいといえるでしょう。
また、同時売却を円滑に進めるには、不動産会社との密な連携が不可欠です。名義が異なる事情をしっかり共有し、必要書類(登記簿、印鑑証明書、本人確認書類など)をあらかじめ揃えておくことで、手続きを円滑に進められます。
さらに、買主との交渉を進めるうえでも、「共有状態であること」や「複数名義での契約になること」を事前に明示し、信頼関係を構築しておくことが大切です。これにより、売却後のトラブルも防ぐことができます。
名義が異なるからといって売却が不可能になるわけではありませんが、「それぞれ別々」「一緒に売る」どちらが適切かを見極め、ケースに応じた戦略を立てることがポイントです。
最後に、不動産会社選びも重要です。名義や相続が絡んだ不動産の扱いに慣れている会社を選ぶことで、複雑な案件にも柔軟に対応してくれる可能性が高まります。経験豊富な担当者にサポートしてもらいながら、納得のいく売却を目指しましょう。
名義変更の手続きと注意点
住宅ローンが残っている場合の注意点
土地や建物の名義を変更したいと考えたとき、住宅ローンが残っている場合には特別な注意が必要です。ローン返済中の不動産は、原則として金融機関の担保(抵当権)が設定されており、勝手に名義変更を行うことはできません。
まず確認すべきなのは、現在のローン残高と、金融機関との契約内容です。名義変更を希望する場合、金融機関への事前相談と承諾が必要となります。黙って名義を変更しようとすると、契約違反(ローン契約違反)に該当し、一括返済を求められるリスクもあるため注意しましょう。
名義変更を行いたい理由が「相続」や「贈与」である場合は、事情を説明したうえで、金融機関に必要書類や手続きを確認します。多くのケースでは、金融機関の同意のもとで条件付きの変更が認められますが、審査が必要になることもあります。
また、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を利用している場合は、名義変更によって控除の対象から外れる可能性もあります。「持ち分の割合」や「住宅の使用状況」によって控除が継続できるかが異なるため、税理士や金融機関への確認が必要です。
さらに、名義変更を進めるには、以下のような書類が求められることがあります:
- 金融機関の承諾書
- 登記原因証明情報(贈与・相続・売買の契約書など)
- 印鑑証明書・住民票
- 抵当権に関する書類
抵当権の取り扱いは特に重要です。名義変更と同時に「抵当権の設定変更」や「新たなローンへの借り換え」が必要になるケースもあり、慎重なスケジュール管理と書類準備が求められます。
住宅ローンが残っている状態での名義変更は、思っている以上に複雑かつデリケートな手続きです。トラブルや契約違反を防ぐためにも、まずは金融機関に相談し、同意を得たうえで慎重に進めることが大切です。
相続人との連絡が取れない場合の対策
土地や建物の名義を相続人に変更したいと考えても、相続人のうち誰かと連絡が取れないという状況は珍しくありません。このようなケースでは、名義変更手続きが滞り、不動産の処分や活用ができない状態が長引くことになります。
まず行うべきは、相続人の特定です。戸籍謄本を取得し、法定相続人が誰かを明確にします。そのうえで、住所や連絡先を調査し、書面や電話、親族を通じた連絡など、あらゆる方法で接触を試みます。
どうしても連絡がつかない場合は、「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に申し立てる方法があります。この制度を活用すれば、連絡がつかない相続人の代理として、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加することが可能になります。
また、所在が不明で連絡先も不明な相続人がいる場合には、「失踪宣告」や「相続放棄を前提とした対応」など、法的手段を検討することもあります。ただし、これらは手続きに時間がかかるため、早めの準備と専門家への相談が不可欠です。
司法書士や弁護士に相談すれば、連絡の取り方、戸籍・登記の調査、裁判所への申立てまで一連の流れをスムーズに代行してくれます。放置してしまうと、何年も登記ができないまま物件が「宙に浮いた状態」となり、資産価値が下がるリスクもあります。
また、不動産を売却する場合は相続人全員の同意と署名が必要となるため、1人でも所在不明だと売却ができません。共有不動産のトラブルを防ぐためにも、相続人全員と早めに連絡を取り、意思確認と書面準備をしておくことが理想です。
不動産を「使える状態」「売れる状態」にしておくためには、所有者情報を整備し、登記を完了させておくことが大前提です。連絡が取れない相続人がいると感じた時点で、すぐに動き出すようにしましょう。
まとめと今後の対策
専門家への相談の重要性
土地と建物の名義が異なる状態は、相続・税金・売却・トラブルの面で多くのリスクを含んでいます。少しでも不安があるなら、早めに専門家へ相談することが、最も確実な対策です。
不動産の名義に関する問題は、登記や契約、税務、相続など、複数の法律や制度が絡む複雑な領域です。そのため、自己判断で進めようとすると手続きを誤ったり、余計な税負担を招いてしまう可能性があります。
司法書士・税理士・弁護士など、それぞれの分野に詳しい専門家に相談することで、自分の状況に応じた最適な対策を講じることができます。特に次のような場面では、専門家の力が不可欠です:
- 名義変更の手続き方法を知りたいとき
- 相続トラブルの可能性を防ぎたいとき
- 贈与税や相続税の申告について迷っているとき
- 売却前に法的な問題を整理したいとき
また、専門家による無料相談を実施している自治体や、不動産会社・相続サポートセンターなどもあります。費用面が心配な場合でも、初回無料の制度や簡易なアドバイスサービスを活用して情報収集から始めることができます。
不動産の名義トラブルは、「起こってから対応」するより、「起こる前に予防」する方が、手間もコストも大幅に抑えられます。専門家のサポートを受けることで、自分では見落としがちなポイントをカバーすることができるのです。
「どこに相談すればいいか分からない」という場合は、地域の法務局・役所の市民相談窓口・不動産会社に問い合わせてみましょう。信頼できる専門家を紹介してもらえることもあります。
名義の問題は、早く手を打てば打つほど、将来的な負担が少なく済みます。迷ったらまずは相談すること。これが、安心できる相続・売却・管理の第一歩です。
名義を統一するメリット
土地と建物の名義が異なる状態は、一見すると問題がないように思えるかもしれませんが、相続・売却・税務の各局面で大きなデメリットやトラブルを引き起こす可能性があります。こうしたリスクを避けるために、名義を統一しておくことは非常に有効な手段です。
まず最大のメリットは、所有権の明確化です。名義が一つであれば、「誰がこの不動産の権利者か」が明確になり、契約や手続きの際に混乱が生じにくくなります。これにより、不動産の管理・売却・相続がスムーズに進められます。
次に、税務上の負担や手続きが簡素化される点も大きなメリットです。たとえば、固定資産税の通知先や納税義務者が一本化されるため、請求や支払いをめぐるトラブルが起こりにくくなります。相続税や贈与税の計算も分かりやすくなり、税理士や役所とのやりとりもスムーズです。
また、名義が統一されていれば、売却時のリスクも軽減できます。買主にとって「土地と建物の所有者が同じ」というのは大きな安心材料であり、金融機関によるローン審査も通りやすくなります。結果として、高値で、かつスピーディーに売却できる可能性が高まります。
さらに、将来的な相続の場面でも、名義が統一されていれば遺産分割の協議がシンプルになり、兄弟間の揉めごとや不公平感を防ぐ効果があります。
名義統一には、次のような方法が考えられます:
- 贈与による名義移転(贈与税に注意)
- 売買契約による移転(親族間でも有効)
- 相続による変更(遺言書や協議の活用)
ただし、名義変更には費用が発生します。登録免許税、司法書士報酬、贈与税、印紙税などが必要になる場合もあるため、手続きは必ず専門家と相談しながら進めるのが安心です。
「今は困っていないから」「家族の間だから大丈夫」という理由で放置していると、後から取り返しのつかないトラブルに発展することもあります。名義の統一は、「将来の安心」と「不動産の健全な管理・活用」のための第一歩です。