「実家を子どもに譲りたい」「親の家を安く買い取りたい」——つくば市でもよくいただくご相談です。
ところが身内だからと相場より大幅に安い価格で売買すると、税務署から「みなし贈与」と判断され、差額に贈与税がかかります。1,000万円の差があれば、数百万円の課税になることもあります。
この記事では、いくらなら安全なのかを、実際の裁判例と国税庁の通達にもとづいて宅地建物取引士が解説します。「だいたい8割」とだけ書いてある記事が多いのですが、なぜ8割なのか、その根拠までお伝えします。
親子間・親族間売買とは
親子、兄弟姉妹、親族どうしで不動産を売買することを親族間売買といいます。つくば市では次のようなご相談が多くあります。
- 親の老後資金のため、子が実家を買い取る
- 相続で揉めないよう、生前に住んでいる子へ名義を移す
- 共有名義を解消するため、兄弟の持分を買い取る
- 住宅ローンが払えなくなった親の家を子が買い取り、住み続けてもらう
いずれも合法で、まっとうな理由があります。問題は価格の決め方だけです。
なぜ税務署に目をつけられるのか
他人どうしの売買なら、売主は1円でも高く、買主は1円でも安く買おうとします。その駆け引きの結果が「時価」です。
ところが親子だと、売主である親に「安くしてあげたい」という気持ちが働きます。結果として時価から離れた価格になりやすく、それは実質的に財産を無償で渡したのと変わらない——税務署はそう見ます。だから相続税・贈与税の逃れ道にならないよう、チェックされるのです。
みなし贈与とは|安く売ると贈与税がかかる仕組み
相続税法第7条は、「著しく低い価額の対価」で財産を譲り受けた場合、時価との差額を贈与により取得したものとみなすと定めています。これがみなし贈与です。
注意すべきは、贈与税を払うのは買った側(子)だという点です。安く買えて得をしたつもりが、後から数百万円の納税通知が届く——これが最も多い失敗です。

「著しく低い」とはいくらか
条文には金額が書かれていません。ここが多くの方が迷うところです。
ただし条文は「著しく低い価額」と書いており、単に「低い価額」とは書いていません。つまり多少安い程度なら課税されない——これは条文の反対解釈として、裁判所も認めています。
★「時価の80%」の根拠|東京地裁の判断
多くの記事が「8割程度が目安」と書いていますが、その根拠は東京地方裁判所 平成19年8月23日判決にあります。
この裁判では、相続税評価額(公示価格の約80%)で親族に土地を譲渡したケースが「著しく低い価額」にあたるかが争われました。裁判所の判断はこうです。
- 80%は社会通念上、著しく低い割合とはみられていない
- 相続税評価額は土地取引の価格として成り立ちうる金額であり、同水準の価額を対価とすることに経済合理性がないとはいえない
- したがって相続税評価額と同水準かそれ以上の価額であれば、原則として「著しく低い価額」による譲渡とはいえない
加えて裁判所は、国側の「80%との差を利用すれば実質的に贈与と同じ利益移転ができる」という主張について、相続税法7条が「著しく低い価額に至らない低い価額」の譲渡を許容していることを考慮しておらず妥当でないと退けました。
ただし「80%なら絶対安全」ではない
ここを誤解しないでください。この判決は個別の事案に対するもので、すべてのケースで80%が保証されるわけではありません。
不動産を有償で譲り受けた場合の「時価」は、原則として通常の取引価額で評価するという通達(負担付贈与通達/平成元年3月29日付 直評5・直資2-204)も存在します。つまり実務では「実勢価格を基準に考えるべき」というのが安全側の考え方です。
したがって「時価をきちんと把握したうえで、そこから大きく外れない価格にする」——これが実務の結論になります。時価がわからないまま「路線価の8割で」と決めるのが最も危険です。
出典:相続税法第7条/東京地方裁判所 平成19年8月23日判決/「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について」(平成元年3月29日付 直評5・直資2-204)
適正価格を決める4つの方法

①不動産会社の査定価格(実勢価格)
もっとも実務的で、費用もかからない方法です。近隣の成約事例をもとに、実際に売れる価格を算出します。
重要なのは査定書を書面で残すことです。「なぜこの価格にしたのか」を後から説明できる資料になります。複数社から取ればより説得力が増します。
②不動産鑑定士による鑑定評価
もっとも証明力が高い方法です。費用は20〜50万円程度かかりますが、税務署に対する説明力は最も強くなります。
金額が大きい取引、税務調査が入る可能性を強く意識する場合、同族会社が絡む場合などは、この費用をかける価値があります。
③相続税路線価から求める
路線価は公示価格の約80%に設定されています。そのため路線価 ÷ 0.8 で実勢価格の目安を逆算できます。
路線価は国税庁の路線価図で誰でも無料で調べられます。ただし路線価は土地のみの価格で、建物の評価は別途必要です。また画地の形状や接道条件は反映されていません。
④固定資産税評価額から求める
固定資産税評価額は公示価格の約70%が目安です。毎年4〜5月に届く納税通知書で確認できます。建物の評価額もわかる点が路線価との違いです。
くわしくは固定資産税の納税通知書の見方もあわせてご覧ください。
実務でおすすめするのは①を基準にし、③④で裏づけを取る組み合わせです。数字が複数の方法で近い水準に収まれば、価格の妥当性を説明しやすくなります。
それぞれの方法にはメリットとリスクがあります。①は費用がかからず実勢に近い反面、査定会社によって数字にばらつきが出やすい点がリスクです。②は証明力が最も高いメリットがある一方、費用がかかる点がリスクになります。③④は無料で自分で調べられるメリットがありますが、建物の状態や個別の土地条件を反映しきれない点に注意が必要です。目的(税務署への説明力を優先するか、手軽さを優先するか)に応じて、最適な方法の組み合わせを選んでください。
親子間売買のもう一つの壁|住宅ローン
価格の次に問題になるのが住宅ローンです。親族間売買は、多くの金融機関が融資を断ります。
なぜ断られるのか
- 売買を装った資金調達に使われるおそれがある(実際には売買せず現金だけ手に入れる)
- 親族間なので売買価格が恣意的になりやすい
- 返済が滞っても親族間では競売手続きが進めにくい
通しやすくするには
不動産会社が仲介に入り、正式な売買契約書と査定書を用意することが前提になります。金融機関は「第三者が関与した、価格の妥当性が説明できる取引か」を見ています。
それでも扱わない金融機関は多いため、親族間売買の実績がある金融機関を選ぶことが重要です。当社では取扱い実績のある金融機関をご案内できます。
使えなくなる特例に注意
親子間売買では、通常の売買なら使えるはずの税制優遇が使えなくなります。これを知らずに進めると、想定外の税負担が生じます。
3,000万円特別控除が使えない
マイホームを売ったときの3,000万円特別控除は、配偶者、直系血族(親子・祖父母と孫)、生計を一にする親族などへの譲渡では適用できません。売主である親に譲渡益が出ると、そのまま課税されます。
住宅ローン控除が使えない
買主側も、生計を一にする親族や特別の関係がある人から取得した住宅には住宅ローン控除を適用できません。
小規模宅地等の特例との関係
相続時に自宅の土地評価額を最大80%減額できる小規模宅地等の特例は、相続で取得した場合の制度です。生前に売買で名義を移すと、その土地は相続財産から外れるため、この特例の対象にもなりません。
「今売買する」より「相続まで待つ」ほうが税負担が軽くなるケースは実際にあります。売買を決める前に、この比較をしておくことをおすすめします。
※税制の適用可否は個別の事情で変わります。必ず税務署または税理士にご確認ください。
手続きの流れと必要な書類
①価格の根拠をつくる
査定書を取得します。ここが最も重要で、後の税務判断すべての土台になります。
②他の相続人に説明しておく
見落とされがちですが、税務より揉めやすいのはこちらです。長男が実家を安く買い取ると、他の兄弟から「相続財産を減らされた」と不満が出ます。特別受益として遺産分割で争いになることもあります。事前に説明し、できれば書面で同意を得ておくことをおすすめします。
③売買契約書を作成する
親子でも必ず契約書を作ります。口約束や覚書では、税務署に対しても、将来の相続人に対しても説明できません。契約書には印紙税がかかります。
④代金を実際に動かす
銀行振込で記録を残してください。契約書だけ作って現金が動いていなければ、売買と認められず全額が贈与とみなされます。分割払いにする場合も、返済表を作り、実際に毎月入金することが必要です。
⑤所有権移転登記をする
司法書士に依頼します。登録免許税(土地1.5%・建物2.0%※軽減措置適用時)と司法書士報酬がかかります。
⑥翌年に申告する
売主に譲渡益が出れば確定申告が必要です。買主も、みなし贈与に該当する場合は贈与税の申告が必要になります。
つくば市で特に注意が必要なケース
市街化調整区域の実家
谷田部・茎崎・筑波地区などに多い調整区域の物件は、そもそも一般の買主が付きにくいため実勢価格の把握が難しく、査定の根拠づくりがより重要になります。
地価が上昇しているエリア
研究学園・みどりの・万博記念公園駅周辺などTX沿線は地価の変動があります。数年前の評価額をそのまま使うと、時価との差が開いているおそれがあります。価格の根拠は取引時点のものを用意してください。
農地が含まれる場合
登記地目が農地の場合、親子間であっても農業委員会の許可または届出が必要です。つくば市は農地が多く、確認は必須です。
よくある質問
Q. 親から相場より安く買いました。申告しなければわかりませんか?
不動産の名義変更は登記されるため、法務局から税務署へ情報が渡ります。税務署は「お尋ね」という文書で購入資金の出どころを確認することがあります。申告漏れが判明すると、本税に加えて加算税・延滞税がかかります。
Q. 時価の何割までなら確実に安全ですか?
「この割合なら絶対安全」という基準は存在しません。裁判例で80%が「著しく低いとはいえない」と判断された例はありますが、個別事情によります。確実性を求めるなら不動産鑑定評価を取るのが最も強い方法です。
Q. 兄弟から共有持分を買い取る場合も同じですか?
同じです。親族間売買にあたるため、持分相当額の適正価格が必要になります。共有名義の解消についてはつくば市の共有名義 不動産売却|方法・税金・注意点をご覧ください。
Q. 親の住宅ローンが残っています。子が買い取れますか?
売買代金で残債を完済できることが前提です。完済できない場合は金融機関との事前調整が不可欠で、任意売却という手続きになることもあります。まずご相談ください。
Q. 無償であげる(贈与する)のとどちらが得ですか?
ケースによります。贈与なら贈与税、売買なら売主に譲渡所得税がかかり、相続まで待てば相続税です。物件価格・他の財産・相続人の数によって有利不利が変わるため、税理士を交えた試算をおすすめします。
Q. 不動産会社に頼まず自分たちだけでできますか?
法律上は可能です。ただし住宅ローンを使う場合は事実上不可能で、価格の妥当性を示す資料もご自身で用意することになります。契約書の不備は将来のトラブルに直結します。
まとめ
- 親子間・親族間の不動産売買は合法。問題になるのは価格の決め方だけ
- 時価より著しく低い価格で売ると、差額が贈与とみなされ買った側に贈与税がかかる(相続税法第7条)
- 東京地裁 平成19年8月23日判決は相続税評価額(時価の約80%)と同水準以上なら原則として「著しく低い価額」にあたらないと判断。ただし「80%なら絶対安全」ではない
- 安全策は実勢価格をきちんと把握し、そこから大きく外れない価格にすること。査定書を書面で残す
- 価格の決め方は①査定価格②鑑定評価③路線価÷0.8④固定資産税評価額÷0.7。①を基準に③④で裏づけるのが実務的
- 3,000万円特別控除・住宅ローン控除は使えない。住宅ローンの審査も通りにくい
- 「今売買する」より「相続まで待つ」ほうが有利なケースもある。決める前に比較を
- 契約書を作り、代金は必ず銀行振込で動かす。他の相続人への説明も忘れずに
つくば市の親子間売買はハウスドゥ つくば研究学園都市へ
「いくらで売買すればよいか」は、査定を取れば解決します。当社は宅地建物取引士が近隣の成約事例をもとに査定書を作成し、価格の根拠を書面でお渡しします。税務署にも金融機関にも示せる資料です。
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※本記事は2026年8月時点の法令・通達・裁判例にもとづく一般的な解説です。みなし贈与の判定、税額の計算、特例の適用可否は個別事情により異なります。具体的な判断は税務署または税理士にご確認ください。当社は税務相談には応じられません。
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