「施設に入った母の家を売って費用に充てたい。でも母は認知症で、話ができる状態ではない」——つくば市でも非常に多いご相談です。
結論から申し上げると、本人の判断能力が失われている場合、家族が代わりに売ることはできません。成年後見人を選任し、さらに家庭裁判所の許可を得る必要があります。
この記事では、なぜ売れないのか、どうすれば売れるのか、どれくらい時間がかかるのかを、宅地建物取引士が解説します。「まだ元気なうちにできること」にも触れます。
なぜ家族が代わりに売れないのか
意思能力がないと契約は無効になる
民法第3条の2は、こう定めています。
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
売買契約も法律行為です。契約の内容を理解できない状態で結んだ契約は、無効になります。
後から「あのとき母は判断できる状態ではなかった」と争われれば、買主は家を失い、売主は代金を返すことになります。だから不動産会社も司法書士も、この点を厳格に確認します。
「子だから代われる」は通用しない
親子であっても、当然に代理権があるわけではありません。親の不動産を売るには、正式な代理権が必要です。
実印と権利証を預かっていても同じです。本人が理解して委任していなければ、その委任状自体が無効になります。
診断名があれば即アウト、ではない
ここは誤解が多い点です。「認知症」と診断されていても、程度によっては本人が売却できます。
判断能力の有無は医師が判断します。契約内容を理解し、自分の意思で決められる状態であれば、本人が売主になれます。まずは主治医にご相談ください。

成年後見制度を使って売る
判断能力を欠く状態であれば、成年後見人を選任し、後見人が本人に代わって売却します。
誰が後見人になるのか
家庭裁判所が決めます。申立てのときに候補者を挙げることはできますが、希望どおりに親族が選ばれるとは限りません。
財産が多い、親族間に意見の相違がある、といった場合は司法書士や弁護士などの専門職が選任されることがあります。この場合、報酬が継続的に発生します。
★居住用不動産には家庭裁判所の許可が必要
これが最も重要で、見落とされやすい点です。民法第859条の3はこう定めています。
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
後見人に選ばれただけでは、自宅を売れません。別途、処分許可の申立てが必要です。
なぜ許可が要るのか
住み慣れた家を失うことは、本人の心身に大きな影響を与えます。だから裁判所が「本当に売る必要があるのか」を審査します。
判断されるのは、処分の必要性・現在の生活状況・将来の居住環境の見通しなどです。「施設費用を賄うため」「空き家の維持費が負担」といった具体的な理由と、売却代金の使途を示せることが重要になります。
「居住用」の範囲は広い
現に住んでいる家だけではありません。施設に入居していても、住民票がある、将来戻る可能性がある、といった場合は居住用と判断されることがあります。迷ったら許可を得る前提で進めるのが安全です。
なお売却だけでなく、賃貸に出すこと、賃貸借を解除すること、抵当権を設定することにも許可が必要です。
出典:民法第3条の2、第859条の3

どれくらい時間がかかるのか
ここを甘く見ると間に合いません。
- 後見開始の申立て〜選任……1〜2か月程度
- 審判の確定……告知から2週間
- 買主を探す……1〜3か月
- 処分許可の申立て〜許可……1か月程度
全体で半年から1年かかることも珍しくありません。「来月までに現金が必要」という場面では、この制度は間に合いません。
買主にも待ってもらう必要がある
実務では、売買契約を「家庭裁判所の許可が得られること」を条件として結び、許可が出てから決済します。買主にはこの事情を説明し、待っていただくことになります。
この段取りを理解している不動産会社でないと、話が進みません。
知っておくべきデメリット
成年後見は本人を守る制度ですが、使い始めると簡単には終わりません。ここを理解せずに申し立てる方が少なくありません。
①途中でやめられない
「家を売るためだけに使って、売れたら終わり」にはできません。後見は原則として本人が亡くなるまで続きます。
②専門職が就くと報酬が続く
司法書士や弁護士が後見人になった場合、本人の財産から報酬が継続的に支払われます。金額は家庭裁判所が決定します。
③財産を自由に使えなくなる
後見人は本人の利益のためにしか財産を使えません。「孫の学費に」「家族の生活費に」といった支出は認められません。
④家庭裁判所への報告義務がある
後見人は定期的に財産状況を報告します。親族が後見人になった場合、この事務負担が続きます。
それでも、判断能力を失った方の財産を守り、適法に売却するには、この制度によるしかありません。デメリットを理解したうえで判断してください。
★元気なうちにできる対策
ここが最も伝えたい部分です。認知症になってからでは選択肢が限られます。判断能力があるうちなら、次の方法が使えます。
任意後見契約
元気なうちに「判断能力が落ちたら、この人に任せる」と決めておく契約です。公正証書で結びます。誰に任せるかを自分で選べる点が、法定後見との大きな違いです。
家族信託(民事信託)
財産の管理・処分権限を、あらかじめ家族に託しておく仕組みです。信託契約の内容によっては、家庭裁判所の許可なしに売却できる設計も可能です。
柔軟性が高い反面、契約設計に専門知識が必要で、初期費用もかかります。司法書士・弁護士にご相談ください。
家族信託を活用する場合、不動産の名義自体は所有者本人のままにしつつ、登記簿の権利部に信託の内容を記録し、管理・処分の権限だけを受託者に移す形が一般的です。制度の仕組みが複雑なため、まずは司法書士に相談し、任意後見契約と家族信託のどちらが自分の家庭に合うかを比較検討することをおすすめします。
先に売っておく
身も蓋もない話ですが、使わない実家であれば、判断能力があるうちに売却しておくのが最も簡単です。
「まだ元気だから」と先延ばしにした結果、売れない状態になってから慌てる——これが実務で最も多いパターンです。親御さんと話ができるうちに、家をどうするか決めておくことをおすすめします。
あわせて実家じまいの費用と手順|3000万円控除の落とし穴もご覧ください。
実務上のきっかけとして多いのは、介護施設への入居が決まったタイミングです。入居費用の準備のために実家の売却を進めたいと考えても、その時点ですでに判断能力が低下していると、購入希望者が現れてもスムーズに契約へ進めないというトラブルに発展しがちです。介護が必要になってから売却の相談を受けるケースは注意が必要な典型例なので、施設入居の話が出た時点で一度、任意後見契約や家族信託の準備を検討しておくとよいでしょう。
つくば市でのご相談の実情
施設入居と同時に相談が来る
つくば市内・近隣の施設に入居されたタイミングで、「空き家になった実家をどうするか」というご相談をいただきます。この時点で判断能力が残っていれば、選択肢は広くあります。
親が県外の施設に入っている
お子様が県外にお住まいで、親御さんも転居先の施設にいる——この場合、つくば市の実家だけが残ります。遠方からの手続きになるため、早めの着手が特に重要です。
相続人の1人が認知症の場合
見落とされがちですが、親ではなく相続人側が認知症というケースもあります。遺産分割協議には相続人全員の意思能力が必要なため、この場合も成年後見人の選任が必要になります。
認知症の親の家を売却する流れ|5ステップと所要期間の目安
ここまでの内容を、実際の売却の進行に沿って整理します。事前に全体像をつかんでおくと、ご家族の負担や資金計画の見通しが立てやすくなります。

ステップ1:判断能力の確認(主治医の診断・意見)
診断名があるだけでは、売却できないとは限りません。主治医に、売買契約の内容を理解して判断できる状態かどうかを確認します。本人が売れる状態であれば、成年後見を使わずに進められる場合があります。
ステップ2〜3:成年後見の申立てと後見人の選任
判断能力が足りない場合は、家庭裁判所に成年後見の申立てを行います。後見人は家庭裁判所が選任し、司法書士や弁護士などの専門職が選ばれることも多く、ご家族が選ばれるとは限りません。
ステップ4:居住用不動産の売却許可
後見人は本人の代理人として売買契約を結びますが、居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要です。売却の必要性(施設費用の確保など)と、価格が妥当であることを説明します。ここで査定書が資料になります。
ステップ5:売買契約・決済・引渡し
許可を得たうえで売買契約を結び、決済(代金の受け取りと登記)を行います。代金は本人の財産として後見人が管理し、家庭裁判所へ報告します。
本人売却・成年後見・任意後見・家族信託の比較表
親の判断能力の状態や、売却を考える時期によって、利用できる方法が変わります。それぞれのメリットと注意点を一覧にしました(以下は一般的な整理で、個別の事情で異なります)。
| 方法 | 使える場面 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 本人が自分で売る | 診断があっても意思能力が保たれている | 後見の手続きが不要で早い | 決済時に司法書士が意思確認を行い、疑義があれば止まることがある |
| 成年後見制度 | すでに判断能力を欠く | 法律に基づき、後見人が代理して売れる | 居住用は裁判所の許可が必要。半年〜1年かかることがある。途中でやめられない |
| 任意後見契約 | 元気なうちに備える | 後見人を自分で選べる | 判断能力が低下したあと、家庭裁判所で監督人の選任が必要 |
| 家族信託 | 元気なうちに契約できる | 受託者(子など)が柔軟に売却できる | 判断能力があるうちに契約しておく必要があり、設計に専門家の関与が必要 |
すでに判断能力が低下している場合、任意後見や家族信託を新たに始めることは難しいのが実情です。早めの準備が選択肢を広げます。
売却前に確認したい名義・登記と必要書類
所有者(登記名義人)が親本人かどうか
売却できるのは、登記簿上の所有者(名義人)です。親が亡くなって相続登記が済んでいない、あるいは名義が祖父母のままといったケースでは、先に名義の整理が必要になります。名義の整理については家の名義変更の手続きと費用も参考になります。
売却で発生しやすい登記
登記は主に3つです。①所有権移転登記(通常は買主側が負担)、②住宅ローンなどが残っている場合の抵当権抹消登記(登録免許税は不動産1個につき1,000円が目安)、③登記簿上の住所が現住所と異なる場合の住所変更登記。いずれも司法書士が対応します。
決済時の本人確認・意思確認
決済の際は、司法書士が売主本人の確認と意思確認を行います。ここで意思能力に疑義があると決済が止まるため、事前に主治医の意見や後見の要否を確認しておくことが大切です。
用意しておく主な書類
- 登記済権利証または登記識別情報、固定資産税の納税通知書
- 本人の身分証明書・印鑑証明書(後見人が売る場合は後見登記事項証明書)
- 後見人が売る場合は、家庭裁判所の売却許可の審判書
- 住宅ローンが残る場合は返済予定表(金融機関への確認も)
成年後見の申立てにかかる費用の目安
申立てには、収入印紙の申立手数料800円、登記手数料2,600円、郵便切手代(裁判所ごとに異なる)がかかります。主治医の診断書の作成費用や、鑑定が必要と判断された場合の鑑定費用(数万円〜10万円程度が目安)も別にかかる可能性があります。額は裁判所や事案により変わるため、必ず申立先の家庭裁判所にご確認ください。
あわせて、後見人(専門職の場合)への報酬が継続的に発生します。施設費用や医療費が多くかかる場合は、売却代金をどう使うかを資金計画に組み込んでおくと、売却許可の説明もしやすくなります。介護施設の費用と実家売却の関係は介護付き有料老人ホームの費用と実家売却で解説しています。
売却を進める際の問題になりやすいポイント
認知症の親の家の売却では、次のような問題が後から出やすくなります。売り出す前に、一つずつ確認しておくと安心です。
- 抵当権・ローン残債:残債があれば、売却代金で完済して抵当権を抹消します。
- 共有名義:共有者の一人が認知症の場合、他の共有者も含めた調整が必要です。
- 家財・残置物:施設入居後の片付けは、後見人の同意や費用負担を事前に決めておきます。
- 税金:居住用財産の3,000万円特別控除などの特例は、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までが目安です。適用の可否は税務署・税理士にご確認ください。
- 空き家の管理:売却まで時間がかかる間の維持費・固定資産税も見込んでおきます。詳しくは空き家の維持費は年間いくらをご覧ください。
- 遺言・相続への備え:相続人どうしの認識のずれを防ぐため、委任状の書き方(不動産売却の代理人)のような書類の扱いも確認しておきましょう。
つくば市周辺での相談の進め方|当社のサービス
つくば市(研究学園・つくば駅周辺・谷田部など)や近隣の土浦市・牛久市で、「親が施設に入った」「実家が空いたまま」といったご相談を多くいただきます。当社は不動産買取専門店として、次のサービスをご提供しています。
- 司法書士のご紹介と、手続き全体のスケジュール整理
- 家庭裁判所に提出する資料としての査定書の作成
- 許可を条件とした売買契約の組み立て(買取・仲介のどちらも比較)
- 相続・空き家・訳あり物件の売却相談(相談無料)
後見の申立て代理や法律相談は、家庭裁判所・司法書士・弁護士の領域です。当社は不動産の売却面をしっかりサポートします。
よくある質問
Q. 母は要介護3ですが、話はできます。売れますか?
要介護度と判断能力は別物です。身体の状態が悪くても、契約を理解できれば本人が売却できます。主治医にご確認ください。
Q. 申立ては誰ができますか?
本人、配偶者、四親等内の親族などです。身寄りがない場合は市町村長が申し立てることもあります。申立先は本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
Q. 費用はいくらかかりますか?
申立ての実費のほか、医師の診断書、場合によっては鑑定費用がかかります。専門職が後見人になれば報酬も継続します。金額は事案により異なるため、家庭裁判所または専門家にご確認ください。
Q. 許可が下りないことはありますか?
あります。売る必要性が説明できない場合や、本人の生活に悪影響が大きいと判断された場合です。だからこそ、売却代金の使途を明確にすることが重要になります。
Q. 空き家のままにしておけばよいのでは?
維持費と固定資産税がかかり続けます。管理が行き届かないと管理不全空家等として市から指導を受け、住宅用地特例が外れて固定資産税が最大6倍になり得ます。放置も選択肢にはなりません。
Q. 不動産会社は何をしてくれますか?
当社は司法書士のご紹介、家庭裁判所へ提出する資料としての査定書の作成、許可を条件とした契約の組み立てを行います。後見の申立てそのものは専門家の業務です。
Q. 親名義の家を、子が代わりに売ってしまうとどうなりますか?
子であっても、本人の委任や後見人としての権限がなければ代理して売却する権利はありません。無断で契約すると契約が無効になったり、買主との間でトラブルになったりします。本人の署名を代筆するなど書類を整えようとする行為は、法的な責任を問われかねませんので、必ず正規の手続きをご利用ください。
Q. 成年後見の申立てにはどんな書類が必要ですか?
一般に、申立書、本人の戸籍謄本・住民票、主治医の診断書、財産目録、収支予定表などが必要です。必要書類は家庭裁判所によって異なるため、申立先の裁判所の案内をご確認ください。
Q. 売却代金は誰が管理しますか?
成年後見人が付いた場合、売却代金は本人の財産として後見人が管理し、家庭裁判所に報告します。ご家族が自由に使うことはできず、本人の生活費・施設費・医療費などに充てるのが原則です。
まとめ
- 判断能力がない状態での売買契約は無効(民法3条の2)。子でも代わりに売れない
- ただし診断名があっても、程度によっては本人が売却できる。まず主治医に確認
- 判断能力を欠く場合は成年後見人の選任が必要。後見人は家庭裁判所が決め、親族が選ばれるとは限らない
- ★居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要(民法859条の3)。後見人になっただけでは売れない
- 賃貸・賃貸借の解除・抵当権設定にも許可が必要
- 全体で半年〜1年かかることがある。急ぎの資金需要には間に合わない
- 成年後見は途中でやめられず、専門職なら報酬が続く
- 元気なうちなら、任意後見契約・家族信託・先に売却という選択肢がある
つくば市の実家の売却はハウスドゥ つくば研究学園都市へ
「親が認知症で家が売れない」——その段階からご相談ください。まず判断能力の状況をうかがい、本人が売れるのか、後見が必要なのかを整理します。必要に応じて司法書士をご紹介します。
家庭裁判所へ提出する査定書の作成、許可を条件とした売買契約の組み立てまで対応します。時間がかかる手続きですので、まだ元気なうちのご相談を特におすすめします。
査定・ご相談は無料です。売却を決めていない段階、ご家族だけでのご相談でも構いません。
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※本記事は2026年8月時点の民法にもとづく一般的な解説です。当社は成年後見の申立て代理や法律相談を行うことはできません。個別の手続きは家庭裁判所、司法書士または弁護士へご相談ください。判断能力の有無は医師の判断によります。
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